不当逮捕?日産ゴーン元会長の逮捕について【公認会計士の見解】

こんにちは、公認会計士のロディです。

日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン氏が逮捕されて半年ほど経ちました。

逮捕容疑のうち、「会計不正」が行われたのでは、との指摘があるようですね。

公認会計士としてこの事件には多少なり関心があったので、この事件の概要を調べ、考察してみます。

カルロス・ゴーン氏の逮捕容疑

「有価証券報告書の虚偽記載」

この名目で、カルロス・ゴーン氏は2度逮捕されています。

その後、「特別背任の疑い」で2度逮捕されており、2019年4月15日時点で計4度逮捕されています。なお、本記事では「有価証券報告書の虚偽記載」ついてのみ言及します。

「有価証券報告書の虚偽記載」とは、「有価証券報告書に嘘を書いた」という事です。

具体的には、「役員報酬の金額を過少に計上した」という疑いで、ゴーン氏は逮捕されています。

「過少」なので、本当は報酬を沢山もらったことを公表なければならないのに、少ない金額しか公表していない、という疑いです。

先に結論です

本記事の結論としては、(知りうる報道が全て事実であるとすれば)起訴するのは無理なのでは、と考えます。

理由としては、何ら嘘を書いていないからです。

具体的に見ていきましょう。

逮捕容疑の具体的な内容

1度目の逮捕は、2011年3月期~2015年3月期の5年間が対象。役員報酬の約50億の過少計上との疑いです。

2度目の逮捕は、2016年3月期~2018年3月期の3年間が対象。役員報酬の約43億の過少計上との疑いです。

有価証券報告書のうち、「6.コーポレートガバナンスの状況等」という項目があり、その中で「役員ごとの連結報酬の総額」の記載が求められています。(ただし、総額が1億円以上の者に限る。)

ここに役員報酬を過少に記載したとの疑いで、ゴーン氏は逮捕されました。

かみ砕いて言えば、次の事項を公表しましょう、という事です。

  • 役員に支払った報酬の金額
  • 現実に支払ってなくても、支払いがほぼ確定している報酬の金額

そもそも、ゴーン氏に報酬は支払われていない

一般に誤解されている部分なのですが、実はカルロス・ゴーン氏、そもそも過少計上していた報酬は現実に受領していません。

日産自動車のカルロス・ゴーン会長とグレッグ・ケリー代表取締役が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で逮捕された事件について、昨日(11月24日)の新聞朝刊で、これまで判然としなかった容疑事実の中身について、衝撃の事実が報じられた。「虚偽記載」とされたのは、ゴーン氏が日産から「実際に受領した報酬」ではなく、退任後に別の名目で支払うことを「約束した金額」だというのだ。

(引用:ヤフーニュース

約束された金額なので、現実に支払われた金額ではありません。

よって、「役員に支払った報酬の金額」を、公表する義務はありません。(ここまでは当然に争い無し。)

ただし、上述したように「支払いがほぼ確定している報酬の金額」も含むので、「支払いが確定しているかどうか」という点が争点になります。

ゴーン氏vs検察 見解の相違

この点、カルロス・ゴーン氏と検察側の見解は、次のように対立しています。

カルロス・ゴーン元会長が有価証券報告書に記載しなかったとして問題になったのは、既に受け取った報酬ではなく、受け取りを先送りしたとされる報酬だ。先送り分の支払いが確定していたか否かを巡り、東京地検特捜部の判断とゴーン元会長側の主張は真っ向から対立している。(引用:日経記事)

 
要は、「支払いが確定していないのだから、有価証券報告書への記載は不要だ。」との主張です。

この主張は、会計的にも正しいです。

ちなみに、この支払は「退職時に支給される」ものであるとの事から、「役員報酬」ではなく、「役員退職慰労金」に該当します。なおこの場合、上述した「役員ごとの連結報酬の総額」の「等」に該当しうるものと考えられます。(実務上、これを含めている会社を僕は見た事がありませんが。)

さて、もし仮に支払いが「確定」していたのであれば、有価証券報告書に記載をしなければなりません。

では、何をもって「確定」と言えるのか?

会計上は、支払いが「確定」していると判断された場合、「役員退職慰労引当金」を計上しなければなりませんが、それには次の2つの要件が必要とされます(「租税特別措置法上の準備金及び特別法上の引当金又は準備金並びに役員退職慰労引当金等に関する監査上の取扱い(監査・保証実務委員会実務指針第42号)」3.(1))。

①役員退職慰労金の支給に関する内規に基づき(在任期間・担当職務等を勘案して)支給見込額が合理的に算出されること

②当該内規に基づく支給実績があり、このような状況が将来にわたって存続すること(設立間もない会社等のように支給実績がない場合においては、内規に基づいた支給額を支払うことが合理的に予測される場合を含む。)

さて、上記2要件に今回のケースを当てはめてみましょう。

内規が存在するのか?
これは、存在しないという見方が強いでしょう。そもそも存在するのであれば、すぐに決着しています。

内規に基づく支給実績は?
内規が存在しないので、当然ありません。

よって、今回のケースは「支払いが確定した報酬」とは認められないと考えられます。

考えてみれば当然で、単なる口約束をいちいち会計処理していたら、実務は大変なことになりますよね。(口約束は守られる場合もあれば守られない場合もあり、守られなかった場合、その都度処理を取り消さなければなりませんから。)

つまり、虚偽記載はないのでは?と考えます。

結論:起訴は難しいのでは。

ここまでの内容が仮に事実であるとすれば、少なくともカルロス・ゴーン氏を「有価証券報告書の虚偽記載」という名目で起訴するのは難しいかと思います。

逮捕された時点で、何かしらの証拠を掴んでいるものと思っていたのですが、ここまで長引くという事は恐らく何もなかったのでしょう。

本丸は別にアリ?とも推察しますが、そこは専門家ではないので、行く末を観察したいと思います。

2 件のコメント

  • この説明はよく理解できます。1回目と2回目共に合理的な理由も説明もなく特捜検察はゴーン氏を逮捕拘留したことになりますね。恐るべき職権乱用がまかり通るとは驚きです。

    • コメントありがとうございます。
      そうですね、考えれば考えるほど、理由が謎です。
      それから、日産という会社にしては金額的影響があまりにも小さく、謎は深まるばかりですね。

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